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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)7105号 判決 1969年2月14日

被告 日興信用金庫

理由

原告ら主張の請求原因事実は当事者間に争いがないので被告の抗弁について判断する。

債権について差押がなされた場合において第三債務者が債務者に対し、右差押当時未だ弁済期が到来しないが、差押前に取得した反対債権を有するとき右反対債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することができるかどうかについては議論があるけれども、当裁判所は、反対債権(自働債権)の弁済期が被差押債権(受働債権)の弁済期より先に到来するものであるときには対抗することができるけれども、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より後に到来するものであるときには対抗することができないものと解し、かつ自働債権に関しては相対立する両債権の弁済期の先後の関係を定めるについては、一般に差押当時定められていた弁済期を基準として考慮すべきであり、差押申立を契機としてこれにより債務者が期限の利益を喪失するものとする約定あるの故をもつて弁済期を差押申立時として先後の関係を考えるべきではなく、さらに、相対立する両債権につき将来差押申立がなされる等一定の事由が発生した場合に相殺適状を生じ相殺予約完結の意思表示により相殺できる旨の契約がなされている場合にも同様に解すべきものとする見解を正当と考える。蓋し、債権者は本来定められた弁済期と同時もしくはこれに遅れる債務を負担するときは、相殺により自己の債権を回収することについて強い期待を有するものとして差押債権者に対抗することを許してもつて当該債権者を保護すべきであるが、第三者が債務者に対してなした差押申立があつたからといつて本来の弁済期を遡らせてまで相殺を許し、差押債権者に優先せしめて保護することは権衡を欠き正当ではないと考えるからである。

よつてこの見地に基き本件を考察する

本件差押、転付の目的となつた債務者山崎鉄工所の第三債務者たる被告に対する債権は、約束手形の不渡処分を免れるため社団法人東京銀行協会に提供する目的をもつて山崎鉄工所が被告に預託した預託金返還請求権であるところ、右預託に基き被告が不渡処分異議申立のため提供した提供金は昭和四三年四月二三日右協会から被告に返還せられたこと原告らの明らかに争わないところであるから、被告の山崎鉄工所に対する預託金返還債務は右返還を受けた日であると解すべきであるところ、被告が主張する自働債権(その存在については当事者間に争いがない。)は原告平沢関係のものについては、被告が相殺を主張する残元本債権の約定弁済期はいずれも昭和四三年四月三〇日以降であること被告の自認するところであり、原告林関係のものについてはその約定、弁済期日は金二五万円の貸金は同年四月五日であること当事者間に争いないが、被告はその余の貸金についてはこれを明らかにしない(尤も、被告が信用金庫として通常の業務上作成される文書であるから《証拠》により元本金一五〇万円および元本金一二五万円の手形貸付の方法による貸金の弁済期日はいずれも昭和四三年四月五日であると認められる)。

しからば、原告平沢との関係については、本件仮差押申請により右自働債権の弁済期は昭和四三年三月五日到来しかつ相殺予約完結権を行使し、これにより差押債権消滅したとの被告の主張は前記説示の理由により採用できない。しかしながら、原告林との関係については次の理由によつて消滅の抗弁は理由がある。即ち、

被告は被告主張の自働債権(その存在について争いがないこと前記のとおり。)をもつて昭和四三年四月二六日現在において本件2の預託金返還請求権を含む預託金返還請求権と対等額において相殺した旨同年五月一日到達の書面をもつて山崎鉄工所に通知したこと当事者間に争いないところ、被告と山崎鉄工所間には被告主張の期限の利益喪失、相殺予約に関する約定のあることも当事者間に争いないのであるから被告主張の貸金債権およびその利息債権はその弁済期の定めのいかんを問わず原告らの差押申立により昭和四三年四月二六日には弁済期が到来したものというべく、被告主張の金二五万円の貸金債権の約定弁済期が本件2の預託金返還請求権の弁済期より早く到来する関係にあること前記のとおりであるからその余の預託金返還請求権について相殺の妨げとなる事由の認められない本件においては被告は、本件2の預託金返還請求権を含む預託金返還請求権の全部について被告主張の貸金およびその利息債権をもつて相殺できるものとしなければならない。しかるところ本件2の預託金については被告のなした前記通知は、右相殺の意思表示とみるべきである(被告は右通知を相殺の意思表示であるとは主張しないけれども被告の右法律上の見解には拘束されない。)から本件2の預託金返還請求権も相殺により消滅したものというべきである。

しからば、原告平沢が被告に対し前記転付せられた預託金およびこれに対する転付後の遅延損害金を商事法定利率により支払を求める本訴請求は理由あるをもつて正当として認容すべきであるが、原告林の請求は失当として棄却。

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